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論文要約14「場についての論考ーバーナードへの接近ー」

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場についての論考ーバーナードへの接近ー(石井)


問題の所在
情報技術の発達によりコミュニケーションツールは急激に進化し、SNSとして我々の生活の1部を担っている。しかし、その十分な機能に反して人々の人間関係に対する不安は解消されていない。これは、人間の精神的側面を無視し、コミュニケーションの物理的側面のみを進歩させ続けたことによる。このことは人間関係の問題が情報技術だけでは解決できないことを意味している。
本稿ではこの人間関係の場について「場の理論」手掛かりにして本質を明らかにし、高度情報化社会において場とは何かを捉えていきたい。


1場とは何か
場は物理学における概念として19世紀に誕生し、その後様々な分野に影響を与えてきた。
場の概念の始まりは電磁波だ。磁石の引き合いからヒントを得たファラデーはその空間から何かしらの作用を受けていると考えた。さらに荷電体や磁石による電気力線や磁力線の解析が進み、空間の位置による作用の仕方が明らかになった。これらはマスクウェルに引き継がれ、数学的にまとめたマスクウェル方程式を提唱、さらにこれらは場の理論に発展し、空間において強さと向きが存在するものをベクトル、強さのみのものをスカラーとした。
電磁場のように、場の存在との相互作用を通して物理現象を理解しようとする試みのことを「場の理論」と呼ぶのだ。
ここで場とは我々の認識を越える不思議なものであることを述べたい。湯川秀樹は「場があることは物があることとは非情に異なる。場とは力の概念と結び付く"何かしら"なのだ。」という。遠隔作用を促す媒体が空間に存在しているわけではないのだ。場の性質だけが現象の基準に対して本質的なのだ。
この場の概念の登場は衝撃的なもので、多くの物理学者たちを感心させ、我々の生活を一変させた。


2物理学における場の概念が諸学問に及ぼした影響
心理学は20世紀初めに、分析を主な手法とする要素的心理学に限界が見えていた。そこで導入されたのが、心的世界の解釈を物理的世界のそれと一貫させるゲシュタルト心理学で、現実から心理学を遠ざけていた伝統的枠組みから解放させた。その基礎となったのが場の理論である。
我々の実際の行動を規定する心の動きは物理学的な場の概念に適合するとして展開したゲシュタルト心理学は心理学の展開に息づいた。また、心的動きにまで拡張されたことで経営論や組織論にも影響を与え、バーナードは「組織は物理学における場のような概念であり、そこには物理における力と同じように"人力"が存在する」として経営論の基礎に場の理論を置いた。
また、バーナードに影響を与えたホワイトヘッド場の理論に示唆されて有機体的な考え方を最も根源まで進めることができた。
このようにファラデーやマスクウェルの電磁場の概念があらゆる分野に拡張されたのは、場の理論が物事の現象ではなく関係概念によるものだからだ。
また、電磁場の物理現象自体もSとNが必ず互いに存在する点や、引き合ったり退けあったりする点において、人間社会にもに転化できる。


3ホワイトヘッドによる場の考え方
ホワイトヘッドはもともと数学者で、哲学は63歳から始めた。彼はマスクウェルの電磁気理論で博士号をとっており、場の理論を哲学に持ち込んだのは容易に想像できる。
このようにマスクウェルの電磁気学による場の概念が我々の時代に深く刻まれている。
ホワイトヘッド哲学の場の概念には「もの」が存在していない。「こと」が生成、消滅する世界である。また、「こと」に境界がない地続きな状態こそが場の本質である。この点で彼が提唱する「有機体的世界観」はこの世界の全ての存在は生きているという"こと"を意味しており、現在の数学や物理から出発してもたどり着けるというのである。
ホワイトヘッドは「有機体的世界観」により、物理学的概念と人間社会とを統一的に理解する構図を明らかにしたのだ。数学、物理、社会学など別々の領域に思えることを思弁の拡大により単一の体系化しようとした、これが有機体の哲学だ。
そもそもすべての「もの」は地続きで、常に複雑な相互作用を引き起こす「こと」であり、こうしたことの在り方を「出来事」という。これによれば我々の世界は「出来事」だけで出来上がっている。ホワイトヘッド曰くこの「出来事」ばらばらにして抽象化すると時間と空間になるという。
我々は出来事から様々なものを知覚し、それにより成り立っているが、無意識的にでもものを知覚する。でなければ存在出来ないからだ。これを「抱握」となづけ、それが場を形成することにより宇宙が成り立っているとした。「抱握」が場の構成要素であり、時空間すべてが場であり有機体世界観である。


4バーナードにおける場の概念
バーナードはホワイトヘッドの考え方に影響を受けた。バーナードが場の理論経営学に応用させたことは、人間の諸関係を場の理論で解明しようとした試みであるとも考えられる。
バーナードは組織論を考え、また、個人と全体、決定と自由といった相反する2つを統合することを目指した。
バーナードは決定論と自由意思論との間にある相克を乗り越えるために協働を重視し、それを成り立たせる組織の役割として、公式組織と非公式組織、さらに組織の3要素である貢献意欲、共通目的、コミュニケーションを提唱したのである。この公式組織の構造が心的状況と物的状況を示し、それを統合しようとすれば、ここまでの場の理論の一貫した流れ(心と物理状態の統合)に沿うことになる。


5場とシステムとの関係
バーナードは組織における協働の理論の根底にシステムの概念を置き、組織と理論との統合を理論化した。
バーナードがシステムの考え方に依拠した点は、システムの部分と全体という構造だ。組織でいうところの貢献意欲は部分であり、それが組織の構成要素として相互に作用し合う。
ここでホワイトヘッドの「抱握」を思い出してほしい。組織において貢献要員と全体とが関わり合い、無意識的に統合されていくのは「抱握」と同じ現象である。個人の目的が共通の目的に抱握され、組織という他者として生きることになる。ただしこれは個人と組織とのコミュニケーションが前提となっている。
以上をもってバーナードは組織におけるコミュニケーションの重要性を示した。


おわりに
このように歴史と内容をおってみると、問題の所存で述べた高度情報化社会における心理と物理の不和を解決する可能性がみえてくる。
実際システム論には、機械的システム論と有機体的システム論があり、現在は前者の先行により精神状態の不安定が起きている。それについて今回はホワイトヘッド有機体的世界観に依拠し、バーナードのシステム論に言及したのだ。

「ブログ主より」
あまりに壮大かつ難解だったため一部割愛する始末となった。哲学の普遍性と多岐性には感動せざるをえない。今後は有機体的世界観についての理解を深めたい。興味があればGoogle Scholarでタイトルを打ち込んで、自身で原著論文に触れてみてほしい。

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