フリーザといっしょ

原著論文をひたすらまとめてます。最高格の教養を。

論文要約19「ロボットの原因と責任の帰属」

f:id:harutomann3:20200605095952p:plain
ロボットの原因と責任の帰属(河合)

1はじめに
人は本人が原因なのにも関わらず 人工物に失敗の原因や責任を帰属させることがある。今後の社会においてロボット際にはこうした心理過程を考慮する必要があるだろう。
本稿ではまず、社会心理学のこれまでの成果で明かになった対人においての原因と責任の帰属理論を概説し、その後対ロボットやその作成者への帰属について議論する。


2対人の帰属理論
ある人の行為の原因はその人にとっての内的要因と外的要因などちらかに帰属され、それにより責任帰属が行われる。このとき、行為者の意図しないことが起きたときは行為者の責任は免除され、一方で行為者の努力により制御可能だった場合行為者の責任は大きくなる。
本来因果関係は曖昧であり、自己奉仕バイアスなど様々な偏見により変化してしまう。




3ロボットへの責任帰属
研究により対人と対ロボットへの非難や称賛は同程度であり、課題の失敗における非難の程度は機械らしいロボットより人らしいロボットの方が大きいことが示された。また自己奉仕バイアスは参加者とコンピューターとの性格が類似しているほど緩和されることが分かった。これも責任帰属がロボットと人とで変わらないことを示す要因となる。さらに課題の失敗の責任は自立的にふるまうロボットの方が大きく帰属された。
その他諸々の研究から対ロボットへの責任帰属は対人のそれと同程度のものであることが判明した。


4心の知覚と原因帰属
判断者が機械を擬人化する過程があると考えられることから人工物への心の知覚と原因帰属について調査した。調査は、思考や計画などに関する「エージェンシー」と痛みや快などに関係する「エクスペリエンス」の2つの心の軸に基づき、囚人のジレンマ方式の実験を繰り返した結果とそのゲームの敗因の帰属度合いの記録により行った。
結果、課題の遂行能力の不足と、期待した能力よりも低いことが原因帰属の要因となっていることが示された。また詳細なデータから、人間に対しては道徳的な判断を、ロボットに対しては合理的な判断を期待している可能性が示唆されたのでこれについて以下で検証し、ロボットと人間それぞれへの原因帰属の類似点と差異を明かにしたい。


5ロボットの事故事例映像を用いた責任帰属の調査
ロボットが自発的に行動するようになることは複雑な世界に適応するために必要だが、この性能が高まるほど作者の意図しない行為による事故も増える。このような場合人は責任をどのように帰属するのか、ワークショップにより調査した。
事故の責任帰属の対象としてユーザー、ロボット、メーカーの3種類設置し、それぞれが悪いor悪くないと思う理由をアンケートしたところ、ユーザーの責任はロボットの能力や用途を正しく理解することだという認識が明かになった。また、メーカーに関しては、あらゆる事態を予想し事故を防ぐべきという意見とこれは合理的でないという相反する意見がみられた。


6おわりに
本稿では対人の帰属理論に基づいて人工物への責任の帰属を解説した。人工物への期待や実際の知覚が原因や責任の帰属に影響されているのでロボット設計時には性能だけでなくその見た目にも配慮する必要がある。しかしこれらにはまだ研究の余地が残されている。
事故に関しては、ユーザーのロボットに対する理解やメーカーの事故の未然処理等が課題として挙げられた。研究者や製造者、利用者たちの間での相互理解と協力が求められる。

「主より」
ロボットの自発性とそのエラーは今後の社会で確実に話題となるだろう。本稿でのロボットの擬人化や期待というのは人工知能の"心"の問題と関わりが深い。そもそも機械は心を持つべきなのだろうかという点も議論の余地がある。機械の膨大な計算力は当然重宝されるが、もしかしたら"心力"なるものも定量化され得るのではないだろうか。もしそうなら、計算力同様機械の力に頼る未来があるのかもしれない。つまり、道徳、倫理面でも人間より機械の方がはるかに高い処理能力を持つ未来だ。