論文要約15「宮崎駿にみる身体感覚-体感体験と創造性」~前編~
宮崎駿にみる身体感覚-体感体験と創造性(高橋、松下)
1はじめに
"千と千尋の神隠し"や"ハウルの動く城"など多くの名作を手掛け世界中から称賛される天才宮崎駿、直接出会った人は彼の作品以上にその人間性に魅力を感じるという。
本論では資料から主に宮崎駿の特殊な身体感覚・体験感覚と考えられるエピソードを抜粋し、それらが作品に与えた影響や関係性について、精神医学的に考察した。
2検討の対象とした資料
・宮崎駿の著書、インタビュー記録
・作品(ナウシカ、もののけ姫、千と千尋の神隠し)
・関係者の発言
・宮崎駿とその作品を論じた著作物
・小説「ゲド戦記」とそれに関連した宮崎駿、鈴木敏夫の発言
3資料検討の結果
(a)黒い粉
鈴木と荒川が映画「崖の上のポニョ」制作中の宮崎駿に関するエピソードとして以下の発言をしている。
荒川「東映動画の先輩が亡くなったとき、宮崎さんは混乱していたのか絵コンテが不調だった。そのときスタジオで鈴木さんとの雑談を終えて帰って来た宮崎さんが『今鈴木さんから黒い粉が落ちてたの見えたか?』と聞かれ戸惑っていると『黒い粉が降っていただろ、見えなかったのか』などと言われた。言動がおかしくて、どう答えたらいいか判らなかった。」
鈴木「一般の人には伝わりにくいが制作で困り果てたとき精神状態がおかしくなることがある。宮崎さんはそれを具体化する人だから、スタッフに確かめる。こわいので皆『見えた』と嘘をつく。荒川さんが『見えなかった』と答えたのは大事なことで、個人が確立されている証拠」
(b)タタリ神・カオナシ
次に宮崎駿本人の発言から黒い粉を連想させるものを抜粋する。まずはもののけ姫のタタリ神。
「タタリ神のようなもともと形の無いものに形を与えていいのか戸惑うが僕には実感というか体験としてある。感情的なものが爆発し、毛穴という毛穴から邪悪なものがブワーっと出てくる感じ」
「そういうのは皆に共通するものだと思っていた。憤怒に陥ると体中の毛穴から黒いドロドロしたものが出てきて自分でコントロールできないような感覚。自分でも理解不能なくらい凶暴になる瞬間がある。最近はコントロール出来るようになってきた」
このような黒い凶暴な訳の分からないものとして千と千尋の神隠しのカオナシが挙げられる。
「誰のなかにもカオナシのようなものが棲んでいるんじゃないだろうか」
「カオナシの『さみしい、さみしい、さみしい』という歌は危なくて使えない。カオナシを優しいと思った途端に食べられてしまう」
(c)暴力・憎悪・怒り
上記の黒いドロドロは怒りや憎しみを動機にしている。以下では宮崎をより理解するためにもののけ姫のインタビューで怒りや暴力について発言したものを抜粋する。
「暴力は本来無いもので、フラストレーションによって発揮されるみたいな理解をしようとする人間を理解出来なくなる。なぜなら人間に暴力はあるものだと思っているから。」
「もののけ姫の重要な部分として、コントロール出来なくなった憎悪をどうやってコントロールするかというテーマがある。アシタカが自分の腕をなんとかコントロールしようとするのは、自分の内部で爆発する憎しみを何とかしてコントロールしようとする努力の過程だ。」
「アシタカの行動のほとんどが自分の中の憎しみをどうやってコントロールするかということに尽きる。人間誰しもが持っている暴力や憎しみコントロール出来るのだろうかというテーマがこの映画の制作動機であり、人間の重要な課題だと思う。」
ちなみに宮崎駿がスタッフを怒ったというエピソードは数多く存在する。また、高橋勲は宮崎の気質について、「愛情や期待が激しく、それに裏切られると泣き喚き、人を過度に心配して面倒をみたり口をだしたり、向上心の無い者を早々に見限りつつも面倒を見たり、ときに陰口を叩かれ、女性には親切」と語る。
(d)ゲド戦記
怒りに伴い黒いドロドロが身体から出てくるという特殊な感覚について考察するために宮崎駿の愛読書、小説「ゲド戦記」について検討する。宮崎は次のように語る。
「僕は1つの優れた例を持っている。それはアメリカの女流作家ル=グインの『アースーシーの魔法使い』で日本では『ゲド戦記』と訳されている。これは自分の中の戦いを外に広げてうまく書いている作品で、非常に感動し、繰り返し読んでいる。」
「光と闇が対峙していしていて光が正義で闇が悪という構図が嫌い。ゲド戦記では闇が一番力を持つのではないかと言っている。」
また、映画「ゲド戦記」は2006年に宮崎吾朗監督により作成されることになるが、そのための最終許諾を得るために渡米した宮崎はゲド戦記への思いを以下のように語ったという。
「本はいつも枕元にあり、困ったとき何度も読み返しした。自分の作品はすべて『ゲド戦記』の影響を受けている。」
「作品は細部まで理解している。映画化するのに適しているのは自分しかいない。」
「自分はもう年だ。息子たちがこの作品の新たな魅力を見つけてくれるならそれもいいだろう。」
「ブログ主より」
長い文読むの負担だと思うのでこれからは2パートに分けたりして読みやすくすます。
後編は次回。お楽しみに
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